引っ越しました

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「じゃあとりあえずこれで行きましょう。やってみなきゃ分からないこともあるから、その都度変えることも必要だと思うし」 「まあそうだな。ああそれと一つ頼んでおきたいんだが」 「え? なに?」  彼は頬杖をついて言う。 「巧でいい。さんが付くと、仕事の雰囲気が出てきて嫌なんだ」 「……なるほど。分かった、そう呼ぶよう努力する」  今まで別世界のように思って頭を下げていた相手の名前を呼び捨てにするなんて、不思議な感覚だった。    思えばこんな一室の中で寛いでる彼をみるのもなんだか変な感じだよなあ、なんて。 「じゃあそういうことで。俺はちょっと仕事で出てくるから、あとは自由にしてな」   「え、今日仕事なの?」 「うん、はいこれ、家の鍵。失くすなよ」  テーブルの上に置かれた鍵たちを手に取り頷く。彼はそれを見届けると、颯爽と踵を返してリビングから出て行ってしまった。  パタンと扉が閉められ、あまりに広い部屋に一人残されたことに何だかむず痒い気持ちになる。  てゆうか仕事って。私服だったじゃん、日曜日じゃん。藤ヶ谷グループは大変だなあ。
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