引っ越しました

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 私はその場から声だけ上げた。彼はスーツを着ていた。長身にスーツは非常に似合っている、私が三次元を愛せる女ならうっとり見惚れていたに違いない。  巧は私を見てああ、と小さく声を上げた。 「ただいま」 「早かったんだね」 「新婚だから早く帰宅しろと父親がうるさくてな」 「やだ、同じ理由!」  私がつい笑う。新婚だなんて、他に好きな人がいる者同士の契約なのに。  巧は中に入り、私が広げている酒やつまみたちに目をやった。 「早いな、もう夕飯食べたのか」 「え?」  もしや、夕飯を食べ終えた後の晩酌だと思っているのだろうか。巧はネクタイを片手で緩めながら空になったレモンサワーを眺める。私は正直に答えた。 「いや、これが夕飯」 「は?」  キョトン、と目が丸くなる。私は何か、と首を傾げた。 「だからこれ夕飯。買い置きしてあったやつもらっちゃった」 「これが……夕飯??」  なんだかものすごく驚いているみたいだけれど、私は何か変なことを言っただろうか。
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