引っ越しました

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「藤ヶ谷グループの副社長、好きな女の人もいる。なのにそんな馬鹿げたことをするわけない、夫婦間でもレイプは成立するっていうし、私が世間に声をあげたらおしまいだし」 「…………」 「脅すようなこといっても無駄だよ、私たちはこんな形の結婚をしたことでお互い弱みを握ってるんだから。そんなことくらいわかってるくせに」 「……お前さあ……」  もう何度目かわからない深いため息をつかれた。 がくりと項垂れるその姿が、なんだか力ないように見えた。そんな光景が珍しくてつい人間らしいな、なんて感心する。 「そういうところで冷静に反論するな。普通なら狼狽えるところ」 「ごめん」  それもそうだと思ってつい謝ってしまった。三次元に興味ない私はいつでも目の前の人間を男と意識することができない。確かに少女漫画なら、きっと慌てて干してある下着を隠しにいくイベントだ。  巧は困ったように頭をかき、私に言いにくそうに言った。 「じゃあこういえばいいか。  別に好きでもない女のものでも下着をみればやや欲情するのが男として面倒なので部屋干ししてくれ」 「はーい」 「なんで急に素直になるんだよ」
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