引っ越しました

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「え?」 「見過ぎ」  いつのまにかスルメを齧るのも忘れて、私は彼の体を注視していた。しまった、めちゃくちゃガン見してしまっていた。 「ごめん、いい体だなと思って」 「お前親父か」 「それ鍛えてるの?」 「別に」 「へえー男の人はやっぱり鍛えなくてもそれだけ立派な筋肉つくんだねー女とは違う。うんうん」 「…………」  スルメを齧って感心し素直に賞賛の言葉を投げた。けれど、濡れた髪をタオルで拭きながら、巧はどこかげんなりするように目を伏せた。 「思ってた反応と違う……」 「え?」 「なんでもない。俺ものむ」  巧は冷蔵庫まで向かい、中から冷えたビールを取り出した。それを持ち私の隣までくると、すとんとソファに腰掛ける。  ここにきて、巧と隣に座ったのは初めてだった。思ったより自然だし、気まずくもない。 「温めようか、さっき作ってくれたやつ」 「できるのか」 「レンジくらいできるよ!」  先ほど巧が作った料理はやや冷めていたので、それを持ってレンジに放り込む。ちなみに私の分はとっくに完食している。
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