引っ越しました

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「あー普段いばり散らかしてる社長たちもやけに私の顔いろうかがってるよ、非常に仕事やりやすくなった」 「杏奈の会社との取引に何かあれば困るのはそっちだからな。いくらでも立場利用してやれ、お前のところの社長ちょっと横暴すぎる」 「え、そう見える!?」  私は隣を勢いよく振り返る。まさかあの藤ヶ谷グループからそんな風に見られていたなんて!  巧はスルメを齧りながら言う。ところでイケメンとスルメってどうもアンバランスなのはなぜ。 「業界でも有名だろ、やり方を選ばないってな。上には媚び諂って部下には厳しいし」 「そうそうそれなの! ほんとね、気分屋だしあれどうにかしてほしい」 「あんなやつのそばでよく長く働いてるもんだ」 「もっと褒めて、どんどん褒めて!」  私が拳を握りしめて力強く言うと、ふ、と彼は笑った。笑うとできる目尻の皺が、あの自分勝手な男とは思えないほど柔らかい印象になる。前も思ったけど、笑うと結構可愛らしくなるんだなあ。  と、いうか。
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