引っ越しました

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 あんな性格の男と同居だなんて大丈夫かってかなり心配していたけれど、これは私の予想とは反して思ったより苦痛ではない。むしろ、一緒にいて結構楽な方だ。なぜだろう、私もだいぶ性格に難あるのかな? 似たもの同士ってこと?  決して優しい人だとかいい人だとかではないのに、話しやすい。知り合って間もない人だとは思えないほどに。  じっと隣の男を見た。また一滴髪の先から雫が落ちたのを何となく目で追う。外見だけは文句ないのになあ。 「杏奈それ何本目だよ、飲み過ぎ」 「え? まだ時間早いから大丈夫だよ」 「もう終わっておけ、中年太りまっしぐらだから」 「あー藤ヶ谷巧の奥さんがデブじゃだめか」 「そういうこと。俺の妻ならいつでも身だしなみは整えておけ。どこで誰がみてるかわからない、普段通りの杏奈なら大丈夫だと思って契約を持ちかけたんだから」 「へいへい」  やっぱり性格に難アリの男だ。私はむくれて最後のスルメを頬張った。言われなくても、これでも外見は気遣ってますよ。  少し経って巧も食事を終えて私の分のお皿も片付けてくれた。先に帰ったのに私の不動ぶりよ。レンジでチンしかしてない。
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