引っ越しました

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 さては贈ったことがあるのか? 女性に人気のやたらモコモコした可愛い部屋着。この男があの可愛らしい店内に入ってる姿を想像するだけで腹が捩れそうだ。  私はもう一杯冷水を取り出して飲んだ。喉を通る爽快感に頬を緩めながら、ふと思い出したことを巧にぶつける。 「てゆうか、そういえばそのシングルマザーと会う時気をつけてね、愛人作ってたなんて噂になったら大変だよ」  ちょっと忘れていたけれど、彼は他の女性にお熱なんだった。それを納得した上での契約結婚。どこの誰かは知らないが、藤ヶ谷副社長からのプロポーズを蹴る面白い人だと思う。  巧はああ、と小さく頷いた。 「それは大丈夫、安心してくれ」  私は水の入ったグラスを持ったままソファへ歩み彼の隣に腰掛ける。すっかり綺麗に片付けられたローテーブルにグラスを置いた。 「随分断言できるんだね」 「ああ、俺はそんなヘマしない」 「油断禁物だよ、最近は SNSとかで噂出回るの早いし止められないからね」 「何、心配してんの?」  やけに含みを帯びた声で彼が言う。隣を見れば、少し口角を上げた男が私をじっとみていた。  私は強く頷く。
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