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少し離れているため、私もなかなか頻回に会いには行けず、ばあちゃんと会うのは久しぶりのことだった。
「電話で何て言っていた?」
ハンドルを握りながら巧が聞いてきた。黒いジャケットを纏う彼は、やや暑そうに車のエアコンの温度を調整する。
「すっごく喜んでた」
「そうか、喜んでくれてたか」
「まあ、ちょっと騙してる感じもあってやや心苦しいのも事実なんだけど」
本当は愛し合って結婚したわけじゃないし。契約結婚だしなあ。
だが巧はケロリとして言う。
「何言ってる、ひと昔前は見合い結婚が当たり前だったんだぞ、似たようなもんだ」
「でもお見合いで結婚したあとはちゃんと夫婦になってるでしょ、私たちは違うじゃない」
「まあいいだろ。いろんな形の夫婦があったって。お互いが納得してるんだ、ある意味幸せなんだから」
そうだけどさ、と小声で言う。愛も何もないし、これから芽生えることもない。きっとばあちゃんが想像してる結婚相手とはまるで違うんだけどな……
「あ、あれか?」
巧が前方を見て言う。私は頷いた。
「そうそう、あれ。駐車場は左手にあるから」
「分かった」
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