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足を止めてそれを見ていると、彼が何かを取り出した。
「え、何それ」
「は? 見舞品に決まってるだろ」
「……え!」
巧の手には有名な和菓子の紙袋があった。驚きで目を丸くしてしまう、あんなに忙しいそうなのにいつ買いに行ったの? というか、気が利くじゃないか。私より。
「嘘、ありがとう……わざわざ」
「甘いもの嫌いとかないか? 杏奈に何がいいか聞こうと思っていたんだがなかなか時間がなくて話す機会がなかった」
「ううん、ばあちゃん和菓子大好き! ありがとう!」
私は笑顔でお礼を言った。形だけの夫婦だというのに、ちゃんと考えてくれているのは素直に嬉しかった。きっと巧からすれば『そういう契約だから当たり前だろ』みたいな性格悪いこと言い出すんだろうけど、それでも今回はただただ嬉しい。
きっとばあちゃんが喜ぶから。
素直に笑った私を見て、彼はやや面食らったような顔を一瞬したが、すぐに普段通りのすました顔になった。
「別にこれくらいいい」
「ばあちゃん喜ぶよ、お菓子っていうよりそういう気遣いがさ。しまったな、私全く忘れてたや」
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