お見舞い

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「ありがとう、付き合ってくれて」  帰りの車内、私はハンドルを握る彼に言った。巧はぶっきらぼうに答える。 「別にそういう約束だったし」 「でも、おばあちゃん本当に喜んでたし。なんてゆうか、最初はいいのかなあって思ってたけどやっぱりよかった。この結婚した甲斐があるかなって」  本心だった。  あそこまで喜ぶとは思っていなかった。あとどれほど生きられるか分からないし、いいニュースを伝えることができてよかったと思う。  まあ、結婚式だの子供だの、期待させるようなこともあったけど……。  窓の外を見る。見慣れない景色は夕焼け色に染まっていた。人々が行き交う様子を見ながらぼんやりとあの笑顔を思い出す。痩せて皺が濃くなったように見えたなあ。  あと何回会えるだろうか。会うたびに結婚式のこととか聞かれたりするかな。誤魔化すのに一苦労かもしれない。  心の中でそう一人考えていると、長く沈黙が流れた後、隣の巧がポツリと言った。 「結婚式、する?」  思ってもみない言葉に、ぎょっとして隣を見る。彼はまっすぐ前を見据えたまま続けた。
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