来客者

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「ごめんだいぶ早くついちゃって」 「いいのいいの、上がってー」  中に招き入れた途端、彼女は靴も脱がずにほうっとため息をついて玄関を見渡した。信じられない、とばかりに小さく首を振る。 「想像以上の高級マンションだ……何ここ」 「ね。私もまだ慣れないよ」 「藤ヶ谷グループの副社長は違うねえ。お邪魔しまーす」  この家に誰かを招き入れるのは初めてのことだった。巧との事情を知らない人たち相手では、どこからボロが出るか分からない。信頼している麻里ちゃんくらいしか呼べないな。  廊下を進みリビングへ入ると、麻里ちゃんはさらに感嘆の息を漏らした。 「うっそー……テレビで見るようなやつ……ひっろ、綺麗ー」 「マジで掃除が行き届かないんだわ」 「分担なんでしょ?」 「うん、適当な私がたまに巧に小言言われてる」 「あはは!」  お腹を抱えて麻里ちゃんが笑った。そしてすぐに、キッチンに気づく。 「あ、ごめんご飯今から? さてはカレーでしょ」 「あ、そうなの。麻里ちゃん食べる?」 「食事は取ってきたんだけど、ちょっと貰おうかな。杏奈のカレー美味しいんだよねー」
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