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「これぐらいの時間に、城戸サンがここに来ることはわかっているんで、待っていたんですよ」
「そうなんだ。で、なにか用かな」
業務外の話だとすぐにわかる。連隊長秘書室所属で、戦闘員訓練をしている男が、こんな航空関係のところに用はないはずだからだ。だからこそ雅臣は大佐の顔で厳しく突き返そうとした。
それでも彼もそこをわかっていて、業務を抜け出して雅臣を待ち伏せしていたようで、その意気込みも本物。
「業務中にこんなことするものではないと、俺も解っていますよ。でも、どうしてもいま確かめておきたいんですよ」
「俺ではないと駄目なことか? 他の上官に確かめられることではないのか」
嫌な予感がした。シドが思い詰めて雅臣に突進してくることなんて『心優のこと』に決まっているではないか。この男とはあまり男同士の腹の探り合いをしたくはない。そう思っているから、業務中なら特にそこを避けようと雅臣はチェンジ室に入ろうとした。ここに入ってしまえば、一秘書官であるシドは絶対に追いかけては来られない。
だからなのか。去っていこうとする雅臣の背に、シドは焦るように叫んだ。
「み、心優に、子供が出来るってこと、あるのかないのか。それだけ教えてほしい!」
うわあ、おまえもか! 雅臣はチェンジ室の自動ドアが開いたところで立ち止まり振り返ってしまった。
「答える義務はない。プライベートの範囲で彼女と俺の問題だ」
「じゃあ、これからは手加減はしない。それでいいですね。今日はそれが気になって手加減をしたから、心優に投げられた。もう、こういうモヤモヤであいつと訓練するのはいやなんですよ!」
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