5.シドくん、おまえもかぁ!

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 午前中の訓練。心優がシドを投げて勝ったのを思い出す。そういえば、海兵王子とあろう男が、凄腕の彼女とはいえ易々やられていたのも不自然だったかもしれない。  では、本日のあの心優の鮮やかな勝利は、この男が彼女を結婚する女性として気遣ってしまった上での勝利? 雅臣は茫然とする。それを知ったら心優はどう思う? 「それ。心優には……」 「知らせるわけないでしょう。あいつの格闘家としてのプライドを傷つける。でも、避けられないことでしょう。俺、こんなこと、初めてでどうしていいかわからなくて。かと言って、心優に聞けるわけないだろっ。今日もダイナーに行こうと英太兄さんに誘われたけれど、あいつの顔を見たらなんか言ってしまいそうだから断った」  うーん、そんな展開になっていたのかと、雅臣は眉間にしわを寄せた。 「それを聞いて……。フランク大尉は、俺達のプライベートを聞いて、では、どうするんだ。聞けるのか」  俺と心優が確実に肌を重ねて愛しあっていて。それでその先、子供をどうするか、二人でどう考えているか。心優に思いを寄せているおまえはそれを聞けるのか――。男としての問いだった。  だがトラ猫王子は殊の外、真剣な真顔で雅臣に向かってくれている。 「結婚するんだから当たり前のことだろ。今更、俺がそこを避けてどうするんだよ。それに、俺だけじゃないはず。心優は護衛官だ。これからも身体を使うのが彼女の任務だ。妊娠するしないは、同僚や上官にとって大事な問題だ。……と、至ったので、きちゃいました……」  立派な結論だったが、最後の自信なさそうな『きちゃいました……』に、雅臣はつい笑ってしまった。
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