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6.上官(あの人)が泣いた日
日暮れ、薄闇に紛れるようにして、男二人は警備口で待っているタクシーに乗り込んだ。
「はあ~、なんですかね。このスリル感」
隣に座った金髪のシドは、タクシーに乗り込んでも妙に辺りを気にしている。
これも海兵隊の性なのかなと思うほどだった。でも『スリルだ』と大きな身体を丸めているトラ猫王子を隣で見ているのはなかなか滑稽で、雅臣はつい笑ってしまっていた。
「若手ナンバーワンの海兵隊員がなにいっているんだよ」
「俺と城戸サンが一緒なんて、どう考えてもおかしいじゃないですか。しかも、まさかのあそこに連れていくことになるなんて」
「シドがそこがいいって言ったんじゃないか。他にないのか、本当に。いまから行くところが本当に行きにくいところなら、シドが行きやすいところでもいいんだからな」
本当は、変なオジサン達の溜まり場にものすごく興味があるけれど。この御園ファミリーであるトラ猫がここまで嫌がると、雅臣もそれはそれで『そんなに嫌なところ?』と警戒してしまう。
「ダイナーなんて以ての外。寄宿舎にある倉庫バーは若い隊員達の騒ぎ場で、俺が行くならともかく臣サンが行くと若者がびっくりするし」
俺、いつから若者じゃなくなったんだ――と臣サン密かにショック。でも、秘書官を必死にこなしている内にいつのまにか三十も半ばなったのも本当のことで何も言えない。
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