6.上官(あの人)が泣いた日

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 タクシーを降りて、その屋台へと向かう。もう屋台にお似合いの親父さんがいる。タオルハチマキにジャージという姿の彼が、寸胴鍋の中身を怖い顔で覗いている。 「大将、久しぶりー」  シドは既に顔見知りだからか、軽い調子で大将に声をかけた。 「おお、シドじゃねえか。任務から無事に還ってきたんだな。ご苦労さん」 「なかなか大変だったよ、今回は。あの奥様のお供も楽じゃないっすね、といいたけれど、なかなかやりがいがあったかな」  トラ猫王子が少しだけ無邪気に見えたから不思議だった。その親父さんの顔を見ただけで、基地ではきついオーラを放っているシドが心を緩められる、そんな場所?  タオルハチマキに不精ヒゲの大将が、シドの後ろにいる雅臣を見た。 「んー? 子猫にお友達か? お友達にしては、シドにはお兄ちゃんすぎる大人のお友達じゃないか」 「子猫っていうなよっ」  ここでは、赤ちゃん扱いになるらしい。なるほど、おじさん達の縄張りという匂いがプンプンしてきた。そんな雅臣は落ち着いて大将に挨拶をする。 「城戸雅臣と申します。雷神の指揮を、御園准将から任されています」  そういっただけで、大将がものすごく驚いた様子で後ずさるというあからさまな反応を見せた。 「あんたか! 葉月ちゃんを泣かしたパイロット。雷神のいちばん最初の、飛行隊長、リーダーだっただろ」  葉月さんを泣かせたパイロット――という認識に雅臣は目を丸くする。 「泣かせたといえば、泣かせたような……。ですが、雷神のリーダーにと准将が抜擢してくれたというのは、自分のことです」
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