6.上官(あの人)が泣いた日

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「そ、それ以上はいわなくてよし! つーことは、横須賀から来た『新しい大佐』だな」  よく知っていてびっくりする。それ以上言わなくていいということは、雅臣が事故で雷神を去ったことも知っているようだ。 「そ、そうです。よくご存じですね」 「おっしゃー! やっと来たぜ、真のエースパイロット! 今夜はこれだな!」  もう詳しく自己紹介をしなくても大将はなんでも知っているようで、雅臣の目の前にドーンと日本酒の一升瓶を置いた。 「えー、俺はワインがいいなあ」  早速シドがむくれた。 「ワインなんてこじゃれたもんがほしい赤ちゃんは、峠を越えてアメリカナイズな基地に戻りな。こっちは昔っから日本なんだよ」 「じゃあ。おっちゃんの、おでんが食べたい」  あのトラ猫王子が、だんだん子猫に見えてきて雅臣は目を擦りたくなってきた。 「よしよし。おまえ、よく来たな。今日は隼人君もこないんじゃないかな。純さんは仕事が明けないとこっちにはこないし、そうなるとジュールもお手伝いで忙しくてこないだろうな。エドはいまは横須賀にいるようだしな」 「マジで、よかったー。大佐とゆっくり話せる」  なんだ、御園大佐はこないのか……とがっかりしてしまった。そこで雅臣は初めて気が付いた。俺、隼人さんに相談したかったのかもしれないと――。 「ほれ、大佐も座りな。まずはおでんでいいかな」 「はい。いいですね。まさか島暮らしで本格的なおでんに出会えるとは思いませんでした」 「おう、まずは新規ご来店のお祝いで、おっちゃんのおごりな」  豪快な大将が、ガラスコップにとぷとぷと冷や酒を注ぐ。
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