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「浜松基地にお礼の挨拶に行きたいと思っているんだ。最後の適性検査と飛行訓練、これからも小型機は操縦できるよう免許を取るのに世話になったから」
突然、そんな話をしてきてた。でももうすぐ浜松に帰るのだから、それも当然と思って『うん、いいんじゃない』と心優は気易く応えていた。
でも、雅臣は急に、真顔になってなにか躊躇っている?
黒髪を撫でていた手が、今度は心優の耳たぶを抓んで撫でているけれど。それがどこか彼の迷いにも感じてしまう。
「心優はどうする。まえの事務室に挨拶に行ってもいいし、どこか外で待っていてもいいんだけれど」
「ううん。わたしも一緒に挨拶に行くよ。空部教育隊の隊長に会うのも久しぶりだし、臣さんがお世話になって、わたしもT-4に乗れたんだから」
「うん、なら。いいんだけれど――」
そう言うと、雅臣はそれきり黙ってしまった。でもまだなにか聞きたい様子だった。
「臣さん?」
「心優にとって、俺もぴったりな男っていうのは、俺もそうだって言い切れる」
「うん」
その通りだよ。今日だってほら、目が濡れて熱くて泣いちゃったもの。
「でもさ。そんなにだめだったのかと思ってさ。ついさっき……俺に抱きつきながら、『いままでは、こんなことなかった』なんて言うからさ。いままではそんなこと思いつきもしなかったんだけれど。浜松に帰るとなって、ああ、心優も浜松基地にいたんだよな……と思った時にさ……。そんなにだめだったのはいいとして、『そいつ』、まだいるのかなって」
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