6.上官(あの人)が泣いた日

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「うーん、まあ。母親も実業家なんで忙しい人だったから、黒猫の大人が必ず一人は俺と留守番をしてくれていて、みんなが俺の育ての親って感じっすかね。日本のことは黒猫の大人達に刷り込まれたようなもんですよ。時代劇のDVDをみて、日本の文化や歴史を視覚的に軽くまずは知るという感じでしたね。でー、俺、むっちゃ侍とか大好きになってしまったんですよ。着物の日本女性もめっちゃ憧れ。だから、アジアンビューティーとか、アジアンキュートな心優……」  あっという間に酒で酔いが回ってきたのか、シドがそこでぽろっと『心優』とこぼした。そして、雅臣もギョッとする。 「もしかして……。シド。それで、日本女性が好みとか……」 「いうなー! 気が付いても、言って欲しくないっす! 大人の男なら、そこはスルーでしょ、臣サンっ」 「さらに、もしかして……。酒、弱い……」 「城戸君。もうそれ以上は、子猫のことはそっとしておこう。ま、こうしておけば、生意気なことも言わないで大人しいからな。ほい、シド、もう一杯行け」  子猫をぐだぐだにして、大人しくさせて、こっちは大人の話をしようという大将の狙いにも雅臣は目を丸くするし、あれだけ生意気なトラ猫王子が、日本酒三杯でぐだぐだになったのにも驚くしかない。  シドはもう本当に子猫のように、大人しくおでんを食べる男の子みたいになっていたので、雅臣も笑いが止まらない。  大笑いして気持ちがスカッとしてきたせいか、楽しそうにしている雅臣を見て親父さんが感慨深そうにこちらを見つめている。
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