6.上官(あの人)が泣いた日

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「城戸君とは、初めての気がしないんだよな。会うのは初めてだけれど……。なんつーか、葉月ちゃんが城戸君を手放した時の泣きようが異常だったもんで、印象的だったというか」 「え、葉月さんが俺のことで、ですか?」  雅臣が知らない、上司だったあの人が泣いた日を、大将が語り始める。 「ああ、もう。事故で大事な大事な部下を失った、手痛く小笠原から追い出したて、ここで管巻いて呑んだくれてさ……。あの子がああなるのは滅多にないこと。隼人君と一度別れちゃったことがあって、その時に戻りたいけど戻れない、彼が好きだけれど近づけないという状態の時があってね。あのもどかしーい時に一度、呑んだくれてぶっ潰れて。結局、隼人君が迎えに来て面倒を見るという。それ以来じゃないかな」  大佐嬢だったミセスと御園大佐が、一度別れたという噂は、若きパイロットだった雅臣も聞いたことがある。その後、ふたりがどうなるかというのも基地では注目されていた話題でもあった。  そして雅臣も、大事にしようとしていた女性隊員を泣く泣く手放したことがある。いまはすぐそばにいるけれど、心優を手放してしまった時の痛手……。それを、葉月さんも、俺のために感じて、男と別れた時ぐらいの気持ちで、泣いてくれていたんだと初めて知る。 「隼人君からも聞いているし、デイブ……、えっとコリンズ大佐からも。そして、ブライアン、ミラー大佐からもな。誰の口からも、城戸君のことは聞いていてね……」 「そうでしたか。つらい事故でしたが、当時は大人になりきれず、上官の皆様には大変な迷惑をかけたと思っております」
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