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彼女のことが好きなくせに。そこはパイロット同士だったせいか、橘大佐も御園准将に妙なライバル心をみせることもある。お互いにコックピットを降りたら、今度は指揮官としての感覚で競っている。
雅臣はまだそんな先輩ふたりの背中をみてついていくしかできない状態。
「クールな大人が多い雷神だが、一人だけガキんちょもまじっているしな。あいつ、また最近、ちょっと荒れてきたなあ」
「はあ……」
横須賀のアクロバット飛行隊『マリンスワロー』時代に、ほんの少しの間だけ後輩でもあった『鈴木英太』。
腕前とセンスは『永遠のエース』と言われるようになったソニックの雅臣でさえ認めるほどの、いままさに最盛期のファイターパイロットだった。
なのにどこか精神が不安定で、そこが先輩としても上官になった今も雅臣は少し気にしている。いつまでも少年のようなのは、真っ直ぐで素直な部分もあって可愛げがあるのだが、そのやんちゃさの裏側に、人知れずの闇を感じることがある。その事情をなんとなく聞かされてきた横須賀大隊長秘書室時代。あえて雅臣は、後輩の苦い過去に痛ましい育ちに触れようとは思わないが、そこが彼に『不安定な波』と与えているのだと考えている。
きっとその『波』がいま来ている。
そこには必ず『天涯孤独になった自分』の、どうにもならない孤独と戦っているのだろう。たとえ、支えてくれる『仮の家族』がいてもだった。
なのに。雅臣の彼女は、妙なことを伝えてきた。
『好きな女の子が帰っちゃったから、鈴木少佐は寂しいのよ』
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