6.上官(あの人)が泣いた日

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「かけりゃ良かったんだよ。小笠原でさ。葉月ちゃん、その覚悟はしていたよ。でも、城戸君自身が空母搭乗に拒絶反応を起こしているのを目の当たりにしたのが、彼女に決意させたんだろうね。だってさ、彼女だって、拒絶反応……。知ってるんだろ?」  ミセスのPTSDのことを暗に仄めかしているとわかった。この大将は御園ファミリーに等しい。雅臣もわかってきた。だから信じて、静かに頷いて返答する。 「本当は、城戸君の痛み。いちばん分かる人間が、その時の上官、葉月ちゃんだったんだよ」 「後で、わかりました。それも知らずに、先に知った部下だった彼女を引き抜かれた時、葉月さんを恨みました。俺から奪っていくのかとか、やっぱり俺はもう眼中にはない用なしで、まだ未熟な俺の部下なら伸びしろがあって育てられるとみせつけているのか――とか。だいぶ荒れました」 「まあ、知らなかったんだから仕方がないよな。そこは、葉月ちゃんもわかっていたと思う。そう思われて、恨まれて然るべき道を上司として選んだってことをね」  だんだん、やるせない気持ちになってきた雅臣は、手元のコップ酒をあおった。
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