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「あのソニックだから、俺だって、我慢してるんすからね。十代の時に見た、城戸サンのスワローアクロバット、めっちゃかっこよかった。特にテイクオフしてから直ぐの! めちゃくちゃ低空からの、急角度急上昇のハイレートクライム。『すげえ無茶すんな』ってやつを観客の目の前でやってのけたあのテクニック。あれすごかったー。エースの成せる技だった。心優が城戸サンを好きだってわかった時、あの男かーって、ショックだったもんなー」
「え、そうなんだ? 俺の展示飛行とか見てくれていたんだ」
あのトラ猫王子が、もう顔を真っ赤にして酔っぱらって……。カウンターにしょんぼりと顔を伏せている。
「広報映像の、コックピットの城戸サンもめっちゃかっこよかったもんなあ。ソニックのアクロバット、ほんと、俺も好きだった」
「そっか、あ、ありがとうな」
「ソニックでなければ、マジで奪っていたからな!」
「うん、わかった。……ていうか、その、これからも心優のこと、よろしくな」
「あー、くっそ! なんだよ、もう!!! おっちゃん、酒!」
はいはいと、大将が今度はどうしてか真顔で子猫のコップに酒を注ぐ。
はあー、俺もどうして! 真っ正面から『あんたの妻になる女、狙っている。好きなんだよ』とかいう男に、『これからも妻をよろしく』なんて言わなくちゃいけなかったのか!
「大将、俺もおかわり」
「はいよ」
やけくそになる場所、なれる場所。きっとここにはまたくるな。雅臣はそう思った。
思ったけれど。何杯酒を飲んだか、覚えていない。
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