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シドが辺りをキョロキョロと見渡す。官舎の一室、和室で、壁にはスワローパイロットの広報ポスター。
彼の顔色が見る見る間に青ざめていく。
「嘘だろ。俺……、絶対にきちゃいけないところに来た!?」
片想いをしている彼女の愛の新居に来てしまったという彼の衝撃。でもかろうじて、彼女と大佐殿が愛しあっているベッドルームではない。
「なんで、臣サン。俺の自宅は、丘の御園家マンションだって知ってたんだろ」
「聞いてはいたけれど、昨夜、どうやって帰ってきたか覚えていない」
「俺もだ。どういう経緯でこうなった。というか、男と寝ていて目覚めるだなんて最悪だ。しかも、城戸大佐と心優の自宅だなんてっ」
シドがすっかりパニックを起こしているが、雅臣もなにがなんだかわからない。
すると、和室のふすまがすっと静かに開いた。
そこには夏シャツ制服にスラックス姿の心優がいた。彼女の冷めた目線……。それだけで男二人は『そうか。俺達は酔って前後不覚になって、ここに帰ってきたのか』と悟った。
「城戸大佐、フランク大尉。おはようございます。お食事が出来上がっておりますよ。お風呂も沸かしておきました。あと一時間で出勤時間です。早めの支度をお願いしますね」
基地でそうであるような秘書官の顔で言われた。それだけいうと、心優はすうっとふすまを閉めていなくなった。
雅臣の背に、さあっと冷や汗が滲む感覚。それはシドも同じく。
「どーすんだよ、臣サン。俺達、二人で会ったことがばれないようにって漁村に行ったのに。二人で酔っぱらって、しかもここに帰って来て心優に知られるって。無駄になってんじゃん」
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