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これは、心優が言っていたことだった。まさかと雅臣もその時は笑い飛ばしたが、心優は妙に真剣で、でも雅臣の『まさか』という言葉に反論してくることもなかった。
確かに、英太には御園のお嬢さんとの妙な噂がある。しかしお嬢さんがまだ未成年のため、仮の家族であるため、おいそれと噂に巻き込まれないようにするのが、隊員たちには『得策』と認知されている。
ただ心優のその目が『わかっていないんだから』という女の子特有の真顔だったのが気になっている。
時々、かわいい彼女のそんな顔が気になっている。彼女は雅臣が知らない何かを知っていて、でも、夫になろうかという男にも絶対に教えてくれない何かをいつも持っている。
仕方がないかと雅臣も諦めている部分がある。彼女は秘書官。ミセス准将の業務の進捗や様々な部署事情はたとえ家族にでもいえないものがあって当然と、元秘書官の雅臣も理解している。だから余計なツッコミは皆無。
でもそこに、どんな事情があって彼女が言葉にしているのか。それは察してあげたいと思っている。
それが……。なんだか、最近、ちょっと難しいと雅臣は苛む。
あー、葉月さんという何を考えているかやりだすかわからない上官の秘書官になっちゃったからかなあ? そう結論づけている。
きっと心優自身も『ミセスはなにを考えているのだろう?』と戸惑いながらも、顔には出さずにそっとミセスのそばにいるに違いない。
橘大佐と陸部訓練棟を歩いていると、一階の道場から賑やかな訓練の声が聞こえてきた。
「お、護衛部の訓練じゃね?」
橘大佐が気が付いて、二人一緒に道場の入口で足を止めた。
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