おまけ① 俺のライバルは、俺!?

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 そこに写る男は若々しく、また精悍で華々しい男だった。  凜々しく自信にあふれ、この男の将来は輝かしく、そしてそれを信じている瞳も煌めいてる。  そうあの目は、いつだって青い空を見ていた。  時には切り裂く白い雲の中を雄々しくゆき、迫ってくる海面に恐れを抱かず落ちることさえも怖くはなかった。そして、落ちるわけがない、そこまで落ちても上昇する力と技量を持っていた。誰よりも。  どこまでも飛べる。誰よりも飛べる。  なにもかもが、恐ろしくもなかった男はそのとき輝いていた。  いまの自分が見ても、羨ましく。そして心に痛みが走る。  あれは俺なのに。もう俺じゃない。  でも俺がいちばん輝いていた時だ。  いまは?  雅臣は首を振る。  いまの俺はこれからだ。  俺はやっと歩き始めて、やり直すんだ。  あのポスターにいる『ソニックという若者』とは違う輝きを探すんだ。  でも彼女は、当時のソニックを知らないから。雅臣の過去の姿を知りたくて、感じたくて、よくこのポスターを眺めていることがある。  それはファイターパイロットだった自分としても誇らしいことだったのに。  まるで違う若い男に彼女を取られた不思議な気持ちになってしまった。  浅葱色のフライトスーツ、朝日にツバメが飛ぶワッペン。  コックピットのシートに身を沈め、ヘルメットからのぞく若い男の目がこちらを見ている。  彼女はあの男にも抱かれている気になっていたのかもしれない。  若い日の俺に会っていたのかもしれない。  翌朝、出勤前。大佐の制服に着替えた雅臣は、ベッドルームの壁に貼っていたそのポスターを自ら剥がした。
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