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横須賀の官舎で一人暮らしをしていた時も、この小笠原に大佐として復帰、転属をしてやってきたのこの官舎にはいっても、自分の寝室になる部屋には必ずこのポスターを貼っていた。
過去の栄光だった。しがみついていた。
「え、臣さん! なにしてるの」
朝食の食卓をふたりで揃え、彼女がテーブルを片づけてくれたその隙にやっていたことだった。
おなじく制服姿に整えていた心優も、出勤前の準備でベッドルームに入ってきて、そんな雅臣のやることに驚いている。
「これ、和室に貼り替える」
「え、ど、どうして」
おまえがこれを見てるからだよ。俺が抱いているときに。
そう言いたいが、年上で大人の臣さんと思ってくれている彼女にそんな姿は見せたくなく、また、彼女がどちらの男性も自分だと思って愛しくみつめてくれている気持ちも傷つけたくない。
「過去の栄光だ。俺は、これから海軍大佐として、副艦長に任命された者として、いつまでもコックピットにいたいとしがみつくのはやめることにした」
嘘ではない。……きっかけはともかく、そうあるべきだとも気がついたから。
「いいの? だって、」
「この俺を見たくなったら、和室にいけばいい。俺もそうする」
そんな心優が、ポスターを剥がし終え、ひとまず丸めている雅臣の背中に、柔らかに抱きついてきた。
「うん。パイロットの臣さんも、もう知っているし、いまの臣さんはもっとかっこいいよ」
かわいい微笑みでまっすぐに自分を見上げる彼女に、雅臣も心から微笑む。
でも思った。
男ってバカだな。
ほんとうにバカだ。
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