流れて行った日々

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 沙奈の好きな喫茶店、お気に入りのアウトドアショップ、公園――どこにも沙奈の姿はなかった。いくつか思いついた言葉をスマホに書き留めておく。  いったいどこ行ったんだよ。そもそも、沙奈がどうしてこんなことをしているのかさっぱりわからなかった。  わかったことといえば、自分は思う以上に沙奈に依存していたということだ。沙奈がいないとコーヒーもまともにいれられないなんて、思ってもみなかった。  買い物にも行かなければいけない。一人で買い物に行くことも数年ぶりだ。食料品や生活必需品は沙奈が買いそろえていてくれた―― 「近くのスーパー寄って帰るか」  一緒に暮らし始めたころは、沙奈と一緒に買い物に来ていた。ほとんど荷物持ち状態だったけど、それでもついて行っていた。いつからだ、沙奈が一人で買い物に行くようになったのは――  覚えてない。仕事は忙しくなるばかりだった。残業は当たり前、休日出勤も珍しくなかった。  家に帰るといつも沙奈が待っていてくれた。出かけるときは食事の用意がしてあった。それが、当たり前だった。  スーパーで冷食を買い込んで、家に帰った。電気のついていない家に帰るのはいつぶりだろう。帰るのは、いつも沙奈の方が早かったから――  一人で食べる冷凍食品は、味気なかった。 『尚君、美味しい肉まん買って来たの、食べる?』  沙奈が買って来たものは美味しかったのに――違う。たぶん、美味しかったのは沙奈が一緒にいたからだ。俺の日々の中にはいつも沙奈がいた。それが、あまりに当たり前になりすぎていたのだ。  その夜も、沙奈は帰ってこなかった。スマホもつながらない。沙奈に会うためには、やはりあの箱を開けるしかないのだ。
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