残された箱

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 もう一行書いてある。 『手がかりになる表を、私が大切にしている本に挟んであるので、そちらを参考にしてね』 「面倒くせぇ……」  そもそも沙奈が大切にしている本って何だ――知らねぇ。俺は立ち上がって本棚の前に立った。沙奈が好きなシリーズの本をパラパラとめくる。それらしいものは見当たらなかった。片っ端から本をめくってみるけれどなにも見つからない。 「なんなんだよいったい」  午後六時、午後七時、沙奈が帰ってくる気配はない。初めはいたずらだろうと高を括っていたが、本当に帰ってくる気がないのかもしれないと思い始めた。しばらくって、いつまで家をあけるつもりだろうか――仕事もあるだろ?  そういえば、沙奈がいつも使っているメイク道具一式が洗面台からごっそり消えていた。  廊下のクローゼットの中に入る。沙奈が愛用しているボストン型の旅行カバンがない。気に入って着ている服もいくつか見当たらなかった。仕事用のスーツもない。玄関からはパンプスとスニーカーが消えていた。 「出て行ったのか――なんで、急に?」  わけがわからなかった。ただ、このままでは沙奈が帰ってこないような予感がする。あの箱を開けなくてはいけないのだ。どうしたって――  
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