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目を覚ますと朝になっていた。今日は日曜日だ。沙奈の手掛かりを探してるうちに、いつのまにかソファで居眠りをしていたらしい。そのまま朝になった。昨夜は何も食べていない、さすがに腹が空いたな……
沙奈はまだ帰ってきていない。本当に出て行ってしまったのだ。そして居場所が箱の中に書いてある。
俺はトーストを作る。ベーコンエッグは焼かなかった。湯を沸かしてコーヒーを淹れる。今日は三杯くらいにしてみる。湧いた湯はゆっくり注ぐ。今日はまともにコーヒーを淹れることが出来た。
他にも食べるものが欲しかったが、冷蔵庫の中は空だった。そうだ、いつもは沙奈が土曜日に買い物に行っていたから、空っぽなのは当たり前だった。買い物にも行かなければいけない。億劫だった。
トーストを食べ終わると、家の中を探し始める。
「沙奈が大切にしてる本ってなんだよ?」
そうつぶやいて気が付いた。好きな本ではない、大切にしている本だ。
俺は寝室にある小さなクローゼットを開けた。沙奈は、大事なものをここにしまう習性があった。きっと、いや、必ずここに在る。
クローゼットの中は綺麗に整頓されていた。大学の卒業証書や、サークルで撮った写真なんかも入れてある。
「これ――」
俺は小さな文庫本を手に取った。見覚えがある。当たり前だ、もともとは俺の本だった。
沙奈は大学の同期だった。学年は同じだけど学部は違って、知り合ったのはサークルだった。アウトドアは名ばかりで、学校の広場に集まってバーベキューなんかして酒を飲むのが主な活動のサークル。
友達の付き合いで入った俺は完全に浮いていて、たまに顔を出しても隅っこで缶ビールを飲みながら大人しくしていたのを覚えている。
沙奈は、協調性に欠ける俺に話しかけてきた唯一の女子だった。あれは二年の夏だ。
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