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「佐山君は野活やる人?」
「え?」
「このサークル、本当に野外活動するために入ってきたのかなって思って。だって、飲み会、あんまり来ないじゃない?」
「いや、野活もしない。付き合いで入ったから。正直飲み会は苦手だ」
沙奈は「そっかそっか」って言って笑って俺の横に腰かけた。
「実は私も苦手でして。あ、飲み会っていうか、お酒自体が。今年は友達が幹事になっちゃってるから付き合いで顔出してるんだ。できたらここでぼんやりさせてもらっていいかな?」
特に断る理由は特になかった。飲み会に参加するたびに、俺と沙奈はみんなの輪から離れた場所でぼんやりしていた。
そのまま休み時間に一緒に過ごすことも多くなった。沙奈と過ごす時間は思いの外心地が良かったから。
「その本面白い?」
キャンパスの芝生で本を顔の上に開いて乗せたまま眠っていると沙奈の声がした。
「これ? いや、好みじゃなかった」
「そうなんだ、私、ちょっと読みたいって思ってた。借りてもいい?」
「じゃあやるよ」
「え! ダメだよ、返す」
「いや、俺はいらないから」
あの時の本だ。沙奈はこの本の感想を何と言っていたっけ――こんな本、なんで大切なんだよ。
友達には付き合っているのだと勘違いされていた。だからそのまま付き合い始めた。
なんとなく一緒に住み始めて、なんとなくこのまま結婚とかするんだろうな――そう、思っていた。違うのか? なぁ、沙奈。
「中に、なんかあるな」
この本でビンゴのようだ。中には折りたたまれた紙が入っている。
「なんじゃこりゃ……」
確かに表が書いてあった。一つ一つの平仮名に、番号が振ってある。表の下にも何か書いてあった。
『私の大切にしている言葉が、鍵を開ける番号です。わかるかな、わかるといいな』
なんで願望? わからない。何文字の言葉かくらい書いとけよ……
見つけたはいいけど、結局箱はまだ開けられないらしい。なんだかもどかしいな――
沙奈が大切にしてる言葉ってなんだ――
俺は沙奈との日々を思い出してみることにした。
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