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「俺、おっさんだぞ?目つき悪いぞ?体でけぇぞ?こんな俺が魔法少女のフリフリなドレス着てみろ、何が起きると思う?」
「視覚の暴力ってやつだね、知ってる!」
「わかってんじゃねぇか!下手したら変質者扱いで捕まるんだよざっけんな!!」
「僕だって嫌だよ、本当はもっとこう、ロリ顔できょぬーで太ももムッチムチの美少女を選びたかったんだよ!!」
「欲望に忠実すぎるだろお前!!」
やばい、ツッコミ追いつかない。柴犬っぽいくるんとしたシッポをフリフリしつつ、自らの願望をシャウトする謎生物。もしや、本当にやむをえない事情があって仕方なく俺に声をかけた、というやつなんだろうか。
いやだからって、人の住んでるアパートに不法侵入してくるんじゃねーよと言いたいところだが。
「僕だってね……僕だってね……おっさんの魔法少女とか嫌なんだよお」
犬もどきは、しくしくと泣きながら目元をこする。お前、中に人間入ってんじゃねぇの?と俺は心の中でさらに追いツッコミ。
「でも仕方ないんだよ。僕の魔力と適合できる人間、この地球広しと言えどほんとおおおおおおに数少ないんだから。百万人に一人の確率とかほんとナメてるとしか思えないよね?でもってそれでも候補者を五人も見つけた僕って超頑張ったと思わない?むしろめっちゃ褒めて欲しいんだけど?」
「じゃあ俺以外の四人に声かけろよ」
「アンタがいろんな意味で一番マシだったの察して!!」
「ええええ……」
四十二歳のオッサンが一番候補者の中でマシって、いったいどんな人選だったんだ。知りたいような、知るのも恐ろしいような。少なくともこいつの物言いからして、その面子の中に“可愛いロリ系美少女”が含まれていなかったのは確かである。
「とにかく!あんたには何が何でも、魔法少女になってもらうんだからね!拒否権ないの!!」
「ってぇ!?」
がつん、と額に何かがぶつかった。ごろんと畳の上に転がったのは、でかいピンクの星型の石がハマったチャームのようなものである。仮にもこれから魔法少女を依頼しようという人間の顔面に向かって、変身道具をブン投げるマスコットが一体どこにいるというのか。
「ダーク・エレメンツの脅威は、もうそこまで迫ってるんだから!」
犬モドキはぷんすこしながら、俺の前で仁王立ちした。いやお前、二足歩行できるんかーい!
「あんたしかいないの!他の四人に頼るとか嫌なの!それに触って“ホーリーパワー・ステージオン!”って叫べば変身できるんだからね!あんたがいくらおっさんでも!おっさんでも!目つき悪いおっさんでも!」
大事なことだから三回言ったんですねわかります。
キバルは額をさすりながら、やや涙目で思ったのだった。
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