ウィッドチェンド嬢の結婚事情

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絶句するダレンをよそにユージェニィは淡々と続けた。 「人知れずわたくしが倒します。倒したらわたくしは家を出る。兄殺しをウィッドチェンド家に置くわけにはいきません。家は弟が継ぎます」 「なるほど。それで花婿候補に嫌がらせして遠ざけたわけですか。いやいや、健気なことですね。そこまでお家大事ですか」 「ウィッドチェンド家が大事なのではありませんわ。大事なのは弟の幸せです。あの子は真面目な優しい子です。魔法に溺れた愚かな兄や好き勝手遊んでいたわたくしとは違う。ノウがウィッドチェンドの人間と世間に知られる前に必ず殺す。殺して、すべて闇に葬る」 「なるほど。よくわかりました」 ダレンはうなずいた。 「ですから邪魔をしないでください。わたくしは」 「なら僕と婚約しませんか」 「はい!?」 そばに使えるメイドも目をむいた。 「なんでそうなりますの!?」 「悪役令嬢を演じるには同じく悪役男が不可欠です。僕がなりましょう。面白そうだ」 「話を聞いてました? わたくしはノウを倒したら家を出ますのよ」 「婚約だけですよ。失礼ですが、あの程度の腕ではノウに使える魔法使いにも負けますよ。かわいそうな花婿候補たちをいたぶる暇なんてありません。ちゃんと修行しないと」 「でも」 「僕が修行をつけて差し上げます。僕だってノウには遠く及ばないですが、久少なくともあなたより強い」 「あなたにメリットがありませんわ」 「あなたの賞金の半分をください」 「レッスン料というわけですのね。わかりましたわ」 「ついでに真の悪役はなんたるかも伝授して差し上げますよ。そこのメイドさんだけでは頼りないですからね」 「まあ、頼もしい」 「じゃあ、明日また来ます。ご両親に話を通しておいてくださいね」 ダレンはひらと手を振ると窓から外に飛び出した。 「大丈夫ですか。彼」 メイドが言う。 「吹聴したところで誰が信じますか。今の話」 ユージェニィは髪をほどいた。 「それに吹聴すれば脱税のことを密告するまでです」  一か月後、ユージェニィ・ウィッドチェンド嬢とダレン・ウォーカーの婚約発表が行われた。 にこにこ笑ながら毒を吐きあったかと思えば、その毒を笑顔のまま回りにも撒き散らす迷惑カップルが誕生したのである。
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