追放された聖女と王子

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追放された聖女と王子

「万物の穢れを浄化する力を持つ聖女よ。どうか我が国をお救いください」  突然そんなことを言われて、サーシャはものの見事に固まった。 ***  ここはライボスア国の西の外れにある森の奥深く。  現在早朝のここは清々しい空気の中、樹皮や木の芽、そして春の花の香りが強く立ち込めている。  そんな人気の無いところにもポツンと民家があり、それがサーシャの自宅だったりもする。  そしてサーシャがあと5歩で自宅の玄関扉に手が届くといったところで、突然、見知らぬ男が現れたのだ。  来客など、いつぶりだろうか。いや、記憶にない。  っていうか、こやつの足音など一切しなかった。何なの?マジで怖い。  そんなことを考えるサーシャの透き通る青いガラス玉のような瞳は限界まで開かれている。  麻縄で二つに結んだブドウ色の髪も、その心情を表すかのように毛先があらぬ方向にピンと跳ねている。......まぁそんな髪型になってしまったのは単純に寝癖のせいなのだが。  ちなみにサーシャにそう言った相手は、大変なイケメンであった。  雲間から差し込む陽の光のようなプラチナブロンドの髪に、緑を含んだグレーの瞳。凛々しい眉にすっと通った鼻筋、完璧なカーブを描く唇。  着ている服も旅服とはいえ、ここいらでは目にすることができない分厚い生地に刺繍入りのマントときたものだ。しかも着られている感は皆無で、ナチュラルに着こなしている。立ち姿だって無駄に美しい。  それらを総称すると、思わず二度見......いや、三度見をして拝みたくなるほどの、イケメンであった。  ただその髪は長く、肩付近で結って片側の胸に流している。  まるで女性のような髪型なのに、それに違和感を覚えないのは、逞しい体つきをしているからなのだろう。あとイケメンはどんな髪型でも様になるという宇宙の法則にしたがってのそれなのかもしれない。  とはいえ、そんなイケメンかつ屈強な体つきの青年に背後からいきなり何の躊躇もなく腕を掴まれ、まるでダンスを踊るかのようにくるりと身体を回され、そんでもって目が合った途端、先程の台詞を耳にしてしまえば、混乱を極めるのは人として当然の流れである。  そのお陰であまりに驚きすぎしまい、限度いっぱいに片腕に抱えていたじゃがいも数個が、コロンコロンと地面に転がり視界から消えていくのが見える。でも、しゃがんでそれを拾うことができない。  なぜなら、このイケメンに腕を掴まれてしまっているからで。  しかもサーシャを取り囲むように、皺一つ無い騎士服に身を包み腰にはしっかり帯剣している厳つい男達がいる。  ......え?言ってることと、やっていることが違くね?  サーシャは心の中で突っ込みを入れた。  はっきり言ってこれは恐喝だ。  正直、無理矢理拘束して、へりくだった言葉を紡がれるより、跪いて「四の五の言わずにさっさと浄化しろよ、このクズめが」的な感じで罵倒されたほうがまだ良かった。  だってそれなら、じゃがいもを拾うことができるし。  そんなことをぼんやりと考えていたら、目の前にいるイケメンは困ったように眉を下げた。
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