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 俊彦は愛美に対する心構えを確と決めるべく次回のお見合いまでに曜子の気持ちを確かめ、自分を好いていることを探り出せたなら自分も君を好いているから身分関係なく交際しようと言ってみることにして或る日、態と散らかした自分の部屋に曜子を呼んで彼女に片付けさせながら言った。 「こんな用を言いつける僕をどう思う?」 「えっ」  曜子は行儀よく両膝を合わせて絨毯に突き、落ちていた単行本を拾いながら学習デスクに座っている俊彦の方へ振り向いた。  俊彦は回転チェアをくるっと廻して曜子と向き合って、「あっ、それをくれないか」と言った。  曜子がなよっと立ち上がって淑やかに近づいて来ると、俊彦は対等な立場を示すため腰を上げた。両人の顔が接近し、曜子が俊彦の顔を仰ぎ見て丁寧に両手で持った単行本を差し出しながら鈴の音のような澄んだ声で、「どうぞ」と言うと、俊彦は単行本ごと曜子の両手を両掌で優しく包んで殊更、神妙になって言った。 「僕のこと、どう思う?」  すると、曜子は見る見る花顔に紅葉を散らし、感激してか、手を震わせながら、どう答えようか、躊躇った。 「是非とも言って欲しいんだ」と俊彦に促されると、曜子は口元も微かにわなわな震わせながら口を開いた。「私、どう答えていいか分かりません」 「遠慮はいらない。僕は女性としての君が好きだ。君は男性としての僕をどう思う?」 「あ、あの、私は・・・」と曜子が益々赤くなって言葉に詰まり俯いてしまうと、俊彦は曜子の両手を両掌で固く握って誠意を込めて力強く言った。 「僕は本気なんだ。頼む、言ってくれ」  その言葉が脳天に稲妻のように響いた曜子は、顔を上げ、真意を確かめるべく思い切って俊彦の目を見つめた。 「さあ」とさらに促されると、その真剣な目に絆された曜子は、麗しい目を随喜の涙で潤ませながらぽつりと言った。 「す、好きです」  それは紛れもなく感極まった言葉だった。で、嗚呼、やったぞ!よし!と俊彦は心の中で快哉を叫んだ。そして、「よし」と今度は口に出してから勢いに任せて言った。 「これで僕の腹は決まった。令嬢とのお見合いを断って曜子と結婚して画家を目指す!」 「えっ!」と言った切り俊彦と篤く目を合わせた儘、驚く曜子に俊彦は不退転の決意を語った。 「当然、親父に勘当されるだろうから僕は曜子とこの家を出る積もりだ。しかし、いきなりそうしたら僕らはやっていけない。だから僕は取り敢えずイラストレーターになる為デザイン会社に就職が内定するまでは適当にお見合いを続けて粘ることにするよ。そして就職が内定したら曜子のアパートで同棲だ。そうなれば親父は僕を行方不明者として警察に捜索願いを出すだろう。そして僕の行方が知れたら僕に言うともなく自動的に僕は勘当だ。そして曜子は家政婦を辞めて僕は大学卒業したら就職して曜子を養って行くさ」    
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