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二回目のお見合いの場所は俊彦の一存で態と俗な焼肉屋に取り決めた。愛美の人間性を暴くには打ってつけだと俊彦は目算したのだ。
愛美は俊彦をデリカシーに欠けると思ったものの格式張った所だと却って肩肘張って緊張するし、正直な所、当世の女の例に漏れず焼肉が好きだからOKした次第だ。
当日、実際に行ってみて酔って来ると、食べ放題飲み放題コースだからって破目を外して、やれカルビだの、やれロースだのと騒ぎ立てタンもハラミもホルモンもあれもこれも手を出して山葵醤油やおろしポン酢をつけて貪り食って行く愛美を見て、お嬢様の気取りがなくなると、こうも浅ましく強欲な正体を暴露するものなのかと呆れた俊彦は、ピリ辛のハラミやキムチでご飯を食べて体が熱くなったので氷結レモンサワーで冷やしてから鹿みたいに咀嚼し反芻する愛美にふざけて言った。
「愛美さんは見た目に似合わず半端ない健啖家であられますなあ」
愛美はすき焼きカルビをたっぷり卵にくぐらせながらしどけない顔で心安立てに言った。
「やだわ。俊彦。レディに向かって失礼ね」
「肉ばかりじゃなくて野菜も召し上がらないといけませんよ」
「食べてるわよ。後で締めにデザートもいただくわね。ショコラケーキなんかどうかしら」
「どうかしらって僕はそんなに食えませんけど、愛美さんは食べることが趣味なんですか?」
「そう。お肉だ~い好き!それと飲むこともね」
言いながらキリンラガーの中瓶を取ってラッパ飲みする。
「ハッハッハ!いやあ、豪快!豪快!全く以て酒豪ですなあ、愛美さんは」
「えっ、何のこと?」
「ハッハッハ!お惚けになって、いや、惚けてる訳でもないな、酔いどれお嬢さんといったところか、これまた愉快!ハッハッハ!」
「うふふ、随分、明るいじゃない。いいことよ」
何言ってんだか、何が令嬢だ。はしたない女だと俊彦は思いながら話頭を転じようと、「ところで愛美さん」
「なあに?」
「牛の畜産に於ける、げっぷとおならは二酸化炭素の25倍もの強力な温室効果を発揮するメタンガスであることを御存知ですか?」
「えっ、何それ、知らな~い」
「だからですねえ、あなたのように無知で知らず知らずの内に焼肉にがっつくことは、取りも直さず牛肉食品を求めることは地球温暖化に直結し、地球温暖化を促進することになるんですよ」
「えー!牛のげっぷとおならが!うっそー!冗談ばっかり!」
「冗談でこんなこと言いませんよ」
「冗談じゃないなら何なのよ」
「何なのよってさっき言ったように」と俊彦が言い終わらない内に、「ああ、めんどくさ。そんなことどうでもいいじゃない」と言って俊彦の言うことを意に介さずサーロインステーキにがっつく彼女の前には注文した霜降りの肉がまだどっさりある。肉を網に置いて炙ると、地球温暖化を煽るようにジュージュー言いながら肉汁が出て煙が出る。
こりゃあギャル曽根も顔負けだと俊彦は呆れ返って仕方なく芋ハイボールを呷った。
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