「君に恋して」 ~無敵な桜~

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回りの数百年来の友人たちが 口を揃えて言う 「そんなにしてまで人間に尽くそうとするなんて、馬鹿な奴だ」 「俺たちの仲間のどれだけの数が人間に殺されたか知っているはずだぞ」 「私たちは きれいな花吹雪を作って 潔く春を終わりにすることが  仕事なのよ」 「僕たちは 春を彩るだけの道具なんだよ」 「そのうち 彼女だって来なくなるさ」 だけど 僕は みんなの忠告を無視した 今の僕は 彼女に喜んでほしいし 彼女に いつまでも僕を見ていて欲しかった だから 僕は 花びらを落とすのを止めた 僕は そのままの姿勢で 息を最低限に留め 大地から いつもの何十倍の栄養を一気に吸い上げて 花びらを 僕に貼り付けた そのうち 回りのみんなは 花びらをすべて落としきり 生き生きとした緑の葉を芽吹かせた でも 僕は まだ 花びらをまとっている 多くの人間たちが 僕を観に来ている ピカピカとカメラのシャッターの音が あたりに響き渡る その後方で 彼女が じっと 僕を見ていた
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