川喜田結、18歳

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 翌朝。  スマホの目覚ましを止めるために細い目で画面を見ると、とりあえず固まる。固まるしかない。  別れてから連絡なんてした事の無い元カレ、広太から連絡が入ってる。  見たくない、無理、怖すぎる。  怒られる覚えがありすぎて、連絡内容の予想がつきすぎて見たくない。けど、放っておくわけにもいかない。  文字でのやり取りはあんまり好きじゃないから、思い切って電話をかけてみる。 「……もしもし」  すぐ出た。待って、広太すぐ出ちゃった。  心の準備ができてない。気持ちが追いつかない。 「おはよう……ございます」 「見てくれた?」 「……怖くて見れないから電話した」  広太は結らしいと小さく笑う。広太も相変わらずの優しい口調で何より。 「昨日、夢乃から突然呼ばれたんだ」 「私のこと死ねって言ってた?」 「うーん……そこまで直接的には言ってなかったけど、間接的には言ってた」 「それ、言ってたでいいと思うよ」  それで? 私には何の用があるの?  本題に入ろうとしないでもごもごと口ごもっている広太にイライラとしながら促すと、余計口ごもる。  そういう所だよ、私が振った理由。  せっかちで思ったことを何でも言っちゃう私と、ゆっくりおっとりマイペースな広太は絶望的に合わなかった。  半年も続いた事に今更感心しちゃう。 「夢乃と……別れた」 「……は? 何それ? 意味わからん」  彼女が傷心してるなら慰めていちゃラブする流れなんじゃないの? 広太の言葉を上手く理解できない。 「夢乃が結の文句言ってるのが気に食わなくて、それで別れるって言って離れちゃった……の」 「の、じゃねーよ。全然可愛くないから」  この展開、悪寒が止まらない。  なにこれ、嘘でしょ、嫌だこんなの。 「……言っておくけど」  今更復縁する気は無い。絶対無いありえない。告白される前に断固拒否する。 「今更告られてもキモいだけだから」 「えっ?」 「うん?」  沈黙。広太は何も喋らない。  電話での沈黙ってこんなに怖いの……? 相手の顔が見えないから様子が全くわかんない。まじで怖い、早く喋って。 「俺、今更結に告白する気とかないけど」 「……なんでだよ、今の流れは告る流れでしょ!?」 「しないわ、結に未練とか一切ない」 「うっわ……恥ずかしすぎる。自意識過剰とか恥ずかしくて死ねる」  じゃあ、なんで広太は私に連絡してきたの!? と逆ギレしながら聞く。 「嘘ついたことを謝りたかったのと……」 「嘘?」 「……夢乃にその、えっと」 「あ、夢乃とのセックス拒否ったことね。はいはい、別に恥ずかしがらなくても大丈夫」 「……結は羞恥心どこに置いてきたの?」  うるせぇ、こちとらその事で昨日夢乃に嘘つき呼ばわりされてビンタされとるんだわ。今更こんな事で恥ずかしいなんて思わない。  そんなことより、早く話を続けて欲しい。 「……俺さ、咄嗟に結のせいにして夢乃こと拒否っちゃった。ほんとごめん」  広太の様子が見えてるわけじゃないけど、きっと律儀に頭下げてるんだろうな。なんか笑える。 「いや、別に謝らなくていいよ。私も広太のこと拒否ったし、実害が出てるわけじゃ……出てるわ」 「うっ……それは言わないでよ」  だって、実際私ビンタされたし。ほっぺ痛かったし。本当の事じゃん。 「それと……ここからが本題なんだけど……」  ここからが、本題?  謝らなくていいよとは言ったけど、私への謝罪がついでみたいでムカつく。謝るならちゃんと謝れ。 「結って桔平と仲良いでしょ?」 「う、ん」  なぜ? なぜ今桔平の名前が出てくるの? 話の予想が全くできない。 「今年初めて桔平と同じクラスになってちょいちょい話してるんだけど、桔平ってヤリチンだよね?」 「うん、紛うことなきヤリチン。下半身で思考してる獣」 「じゃあ……男もいけたりするかな?」 「……は?」  何この流れ、何この話。 「俺、結に拒否られた後に焦って色々勉強してたんだけど、ゲイの人のブログ読んでたら男の方が良くね? って思い出して」  待って、話に全くついていけない。 「夢乃に告られたから付き合ったけど、いざとなったら、全く興奮しなくて、つまり勃たなくて、あっこれはもう男じゃないとダメだって気づいたの」 「広太、待って、私に落ち着く時間をちょうだい」 「桔平は性欲の塊でしょ? それなら男の俺の相手もしてくれるんじゃないかなって思ったの。だから、結から桔平に頼んでくれない?」 「はぁ!?」  何を? は? えっ、私が桔平に広太とセックスしてくれない? って頼むの? 無理に決まってんだろ!? 「最初は知ってる相手の方が安心するから、じゃあよろしくね〜」  ぶちり。無慈悲な音とともに電話は切れた。  思考できない。頭がまともに動いてくれない。なにをどうすればいいかわからない。  とりあえずそのままベッドに倒れ込む。倒れ込んでから、大声で叫んでみる。すっきりもしなければ、なんだか余計物悲しくなった。  夢乃の事と、広太の事。悩み事が増えて余計どんな顔して学校に行けばいいか分からなくなった。
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