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踏み込んだ先は吹き抜けた場所で、一面が真っ白い絨毯だった。たくさんの白い花が花開いている。澄み切った風がその白を揺らし、ゆらゆら微笑んでいる様にさえ見える。その笑顔はまさに一花だ。愛らしい笑顔が目の前に広がり、胸が熱くなる。
「一花、一花……」
俺の背中から降りた香織は、必死で青いイチリンソウを探す。俺も花を踏まない様に気をつけながら探していく。
一花に導かれるみたいに、二人はある場所へと辿り着いた。
そこには青いイチリンソウ〝星叶花〟が、美しく咲いていた。名前の通りの星の形の花。
「あなた、見つけた!」
「うん、良かった!」
彼女が、その薄青い花びらに指先を触れた。
二人で一緒に願う。
〝一花に会えますように〟
その花が眩い光に包まれ、天空へと一本の線を放った。
俺たちはあまりの眩しさに目をぎゅっと瞑る。
すると、懐かしい匂いと共に優しい温もりに抱き止められた感覚がして瞼を開いた。
「パパ!ママ!」
目の前には、白い花たちに包まれた一花の笑顔がある。
つかまり立ちしか出来なかった娘が立っている。
一花に会えた。もう一度、会う事が出来たんだ。
「一花……どうして?どうして死んじゃったの?」
一花を抱き締めながら、香織が泣き叫ぶ。
「ごめんね、勝手に居なくなっちゃって。でも、でもね、二人の子供に産まれてすごく幸せだったよ」
「私は気付いてあげれなかったのよ!ダメなママよ!ごめんね、ごめんね……」
「ママのせいじゃないよ、だから自分を責めないで!ママはね、笑ってる顔が一番可愛いの。だから、いつも笑っていて!」
俺も涙を零しながら、彼女と一花を抱き締める。
懐かしい匂いと優しい温もり。
可愛い、愛らしい一花の姿を抱き締める。
「ごめんな、一花。いつも一緒に居てあげれなくて」
「いいよ、私はもう大丈夫だよ。だからもう苦しまないで。パパ、ママ、大好きだよ」
そう言って微笑んだ一花は、イチリンソウの様に美しくて可愛いくて、本当に愛らしい。
「一花、愛してるよ。私たちの娘として産まれてきてくれてありがとう。ママ笑顔で頑張るからね!」
香織が久しぶりに心から微笑んでいる。その笑顔は目の前に居る一花にそっくりだ。一花が香織に似たんだな。
そして、俺はずーっと言いたかった言葉を口にする。
「一花、おはよう。愛してるよ。たくさんの愛をありがとな。パパも頑張って生きるよ」
「パパ、ママ、ありがとう!」
一花の笑顔がパッと咲くと、体が透き通ってまた天空に一本の光線が伸びていく。
透けていく体を二人で抱き止める。
もう少しこのままで居たい。三人でずっと一緒に居たい。
眩い光が一花を包み、その光線と同化して天空へと登っていく。笑顔で手を振る一花を二人で見つめる。絶え間なく涙が溢れ落ち、目の前がゆらゆらと揺らぐ。
「一花が来世で幸せでありますように」
俺は天にそう祈った。
一花の姿が消えると、その〝星叶花〟は花びらを煌めかせながら散って消えた。
その青が突き抜ける青空と同化して、気持ちを浄化してくれる気がした。
俺たちにはまだ、この空の様にどこまでも続く未来がある。
一花の分も頑張って一生懸命に生きるんだ。
きっとこれから先も苦しい事が待っている。
でも、二人ならきっと超えていける。一緒に協力し合いながら、支え合いながら超えていくんだ。
お互いを信じていれば大丈夫。
幸せかどうかは自分たち次第なのだから。
俺は彼女に手を伸ばした。愛らしい笑顔で、彼女が手を握る。白い花びらたちが、ひらひらと二人の背中を後押ししていく。
そして俺たちは、同じ歩幅で幸せな未来へと足を踏み出した。
*end*
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