第7章 二度目のお見合い

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「10年前にテレビで見たアイドルグループのSHIPSの大ファンになったんです。特にリーダーの長チャンが好きで、毎年、長チャンのお誕生日にはケーキを焼いて写真を撮ってお祝いしていたので、ケーキ作りの腕前も上達しました。結婚して家庭を持ったら、家族のお誕生日のたびにケーキを焼いてお祝いしたいです」  そして、ケーキは燈子さんからいろいろ教えてもらって上達したことを話すと、「プライベートでも会長のご家族と親交があるんですね?」と聞かれた。 「はい。いま秘書として担当している専務の海斗君と、社長の綾人君とは10年前から親交があるので、わたしにとっては親戚の子のように思っていて、いくらかっこよくても恋愛の対象ではありません」  それと…と言った後、声が震えそうになって一旦気持ちを落ち着かせるために深呼吸した。 「わたし、これまでずっと長チャンを推すことが生き甲斐で、長チャンがキラキラのアイドルでいてくれたからこそ、それを励みにわたしも頑張っていられたんです。  でも今日、拓也さんがどこか遠くに行ってしまうかもしれないって思った時に咄嗟に長チャンよりも拓也さんのことを守らなきゃって思ったんです。  もしかすると、すぐに長チャンのことをきれいさっぱり忘れることは無理かもしれませんが、少しずつ…」 「忘れなくていいよ」 「ええっ!?」  わたしの決意を遮った浅野さんの言葉に驚いて、戸惑ってしまう。 「だって…」    想いを断ち切れと言ったのは浅野さんなのに…?  でも、今「忘れなくていい」と言ってくれた声は、とても優しかった。 「リアルで長チャンと恋愛したいとか、抱かれたいとか思っていたわけじゃないんでしょう?それでも彼の笑顔を見て、さあ今日も一日頑張るぞって思えるような存在だったんですよね?」 「その通りです」 「だったら僕も一緒です。時任さんに憧れて、彼に『浅野、よくやった!』って笑ってもらうのが何よりのご褒美でした。だから、汐里さんと一緒です。それなのに勘違いして、大人げなく嫉妬して、想いを断ち切れだなんて偉そうなことを言ってしまってごめんなさい。  これからも毎年、長チャンのバースデーケーキを作ってくれて構いません。彼の歌声を聴いて、笑顔を見て『やっぱり好きだな』と思ってくれて構いません。  そのかわり、僕と一緒に時任さんのお店にも行ってください。これで、おあいこです」 「……はい」  泣きそうになって瞼を閉じた。     やっぱり最初から話しておけばよかったんだ。  浅野さんは、アイドルの追っかけを小バカにするような人じゃなかった。  尊い存在を理解してくれる人だったんだ。  ふうっと息を吐いて気持ちを落ち着かせると、目を開けてまっすぐに浅野さんを見つめる。 「こんなわたしをそのまんま丸っと愛してくれる人と結婚するのが、理想なんです。あ!でも、これからはもちろん貯金もしようと思います。ははっ」  ついでに貯金がないことも認めて、から笑いすると、浅野さんはまた優しく笑ってくれた。
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