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「僕の方は、これまであまり結婚を意識していなかったし、転勤もあったから住んでいる家は賃貸ですけど、持ち家を買う頭金にするぐらいの貯金はありますよ。結婚後のお財布をどうするのかはよく話し合わないといけないけど、お互いにお小遣いを決めて、その範囲なら何に使っても自由ってことでいいんじゃないですかね」
ほうほう、浅野さんの貯金額が気になるところだけど、その前に!
「転勤があるんですよね?よく言いません?家を買った途端に転勤になるって」
すると浅野さんは、ふふっと笑った。
「少し前までは、僕の結婚相手の条件は『転勤になったら仕事を辞めてついてきてくれる人』だったんですけど、考え方が変わりました。随分と自分勝手な傲慢なことを考えていたなと思ったんです。
お給料は下がるけど転勤のないエリア社員になってもいいし、何なら転職してもいいかなって思っています」
「ええっ!?」
「一応、僕一人でも妻と子供を養えるだけの年収はありますから、もちろん転勤についてきてもらっても構いませんよ。3年おきにいろんな土地で暮らすのも新しい発見があって面白いですから」
うんうん。
生きくらげなんて、まさにそうなんだろうなあ。
「わたしはSHIPSのコンサートツアーに帯同した経験もあるので、全国行脚は苦になりませんし、方向音痴ですがドーム球場周辺のお店と格安ホテルだけはとても詳しいです」
浅野さんが、ククッと笑う。
今日はとてもよく笑っていると思う。
「旅行が苦にならないのなら、今度ふたりでどこか泊まりに行きましょうか。格安ホテルではなく、温泉にでも」
「いいですね!」
勢いで返事をしてしまってから、それってもはやラブラブな恋人同士のすることでは!?と、ちょっと言葉に詰まっていると浅野さんがにこっと笑った。
「食事中に告白をするのもどうかと思うので、後でホテルの庭園を歩きましょう」
え、そんな予告しちゃう?
ドキドキするんですけど!
そこからは、浅野さんの気が変わらないうちに!と思って、急いで食事を終わらせようとしているわたしを、浅野さんは笑いをこらえながら見ていたのだった。
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