プロローグ

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「こちら、YKテクノロジーの営業部で課長をしておられる浅野拓也(あさのたくや)さん、そしてこちらが渡辺興産の秘書室にお勤めの藤崎汐里(ふじさきしおり)さん」  叔母の友人の「世話好きなおばさま」である珠子(たまこ)さん…苗字はなんだったっけ、叔母がいつも「たまちゃん、たまちゃん」と言っているから、いつも忘れてしまう。  その珠子さんが仲介人となって、わたくし藤崎汐里・30歳は人生初のお見合いに臨んでいる。  ホテルのラウンジで目の前に座る浅野さんが「本日はお時間いただいてありがとうございます。よろしくお願いします」と頭を下げ、わたしもつられてぺこりと頭を下げる。 「こちらこそよろしくお願いします」  珠子さんが「もお~二人とも仕事じゃないんだから!初対面で緊張するのもわかるけど、もっとリラックスして!」と笑っているけれど、浅野さんとは実は初対面ではありません。  あなたは、あの日のことを…わたしのことを覚えているかしら?  にこりともせずにじっとわたしを見つめる浅野さんの表情からは、何も読み取れなかった。
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