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キヨミズくんを酔わせたい
この人は本当に、あの清水くんなのかしら。
上半身をベッドの上に起こし、長い髪が垂れる胸元まで布団を引き上げて同じベッドで隣に眠る黒髪の青年を見る。
目にかかりそうな前髪……月1回昔ながらのおじいさんが1人でやってる散髪屋さんで「いつもの」って言ってそうな、特徴のない髪型。
清水くんがいつもしてるメガネは、昨夜この部屋に入るなり
「俺、メガネ苦手なんだよね。必要がなきゃこんなもん身に付けない」
と、そこの小さなテーブルに置いた。……必要だから掛けてるメガネを外してずっと私を見てたってことか。見えてたのかしら?
でも、そもそも私が同じ会社に勤めてることすら気付いてなかったっぽいものね。あんな小さい会社で、いくら総務と営業で部署が違うからって、話したことがあるのは清水くんも覚えてるようだったのに。私が見えてても見えてなくても清水くん的には何も変わらないのかもしれない。
昨夜、土曜の夜、同じ総務のさくらと営業の片橋くんが幹事で合コンをした。
男女5人5人で結構盛り上がってる中、
「片橋!」
と、清水くんが乱入して来た。その時にはもうすでに、清水くんはしたたかに酔っているように見えた。
「あれ、清水、1人なの? 彼女はー?」
と片橋くんが意外そうに聞くと、
「フラれたー!」
と、清水くんが叫んだ。
「え? 冗談だろ?」
片橋くんはもちろん、私もさくらもポカンとしてしまった。
嘘でしょ? 清水くんは入社当初から彼女がいると公言していた。高校時代から長く付き合ってる彼女ながらラブラブで、さくらや片橋くん達同期は彼女とも遊んだことがあると聞いていた。
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