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はなひらく
「あ、来たね。入って」
扉をノックするとすぐに開いて、迎え入れられた。勉強しやすいようにか、Tシャツにジーパンとラフな格好だった。
部屋に入ると当然のようにあの不気味な花があった。なんだか、前より大きくなった気がする。
「……あれ、大きくなってないか?」
「ああ、最近成長したみたい」
より気持ち悪く不気味さが増している。茎は青白くて血管みたいになっているし、花弁はさらに真っ赤で血のようだった。
だが、そんなことはコイツはまるで気にも留めていない様子だ。
「とりあえず英語からやる?」
「えっ、ああ……そうだな」
二人で机に向かって勉強を始める。しかし、あの花が気になって仕方ない。どう考えてもこの場には不自然な花。
……なにか、悪い予感がする。悪寒がして、少し気持ち悪い。
「悪い、トイレ借りていいか?」
「うん? いいよ」
逃げるようにトイレに駆け込む。特に何か用があるわけではない。ただ、あの空間にいたくなかった。おぞましい感じがしたのだ。
あの異質な花も平然としているアイツも。
「さすがにそろそろ戻るか……」
せっかく一緒に勉強をしているのに、いつまでも席を外していたら失礼だろう。あそこに戻るのは気が引けるが……なんでコイツの家でやろうと言われた時、断らなかったんだろう。
断って違う場所を提案していたらこんな気持ちにはならなかっただろうに。はぁ、と今更遅いため息をつく。
「ただいま……ってあれ?」
アイツがいない。どこに行ったんだ? 辺りを見回してみる。だが、どこにもいない。
この部屋は狭いし、死角なんてないはずなのに。それに、この部屋以外にいたとしてもトイレから帰ってきた俺とすれ違わないはず、ないのに。
「おーい! どこ行ったんだー?」
平静を装ってアイツを呼ぶ。返事は返って来ない。
なんでだ……? どうして急にいなくなった?
どくどくと心臓がうるさい。部屋は涼しいのに変に汗が出て止まらない。
「……この花、大きくなってる?」
アイツが育てていた花が、さっきよりも一回り大きくなっているような……?
まさか、そんなはずないよな? ありえないよな? だって、近くに血みたいなものも落ちていないし、それらしいものなんて、ない、よな?
頭では近寄ってはいけないと分かっている。絶対にここから離れた方がいいと直感的に感じる。
だが、それでも、花の奥を見ずにはいられなかった。あの口みたいな恐ろしい花弁の中を、見られずにはいられなかった。
「あっ」
近寄ったその時、それが大きく花ひらいた。視界が一瞬で赤に染まった。
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