1 ポンコツパーティで始める楽しい異世界旅。なんじゃそりゃ!

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1ー2 召喚されたら、追放されました。 俺の最後の記憶は、走っていたこと。 といっても、俺は、陸上選手とかじゃねぇ。 ただの帰宅部の低カースト高校生だ。 俺が毎日走ってるのは、クラスメートのあいつのせいだ。 いつも、俺に絡んできやがるヤンキーの斎藤から逃げるために、俺は、毎日、走っていた。 だって、逃げなきゃ、また、カラオケだの、ゲーセンだのつれ回されるし。 俺は、早く、家に帰りたいんだよ! そして、俺の心の妻、アズミちゃんに会いたいんだ! 俺は、息を切らせて走りながら、思っていた。 アズミちゃんは、最近流行りの乙女ゲームの主人公だ。 さらさらの黒髪に、大きな黒目がちの瞳の麗しい、地上最強のヒロイン。 愛の魔法で次々にゲームの中のイケメンたちを虜にしていく。 だけど、俺のアズミちゃんは、数いるイケメンには、目もくれず、俺のためだけに微笑んでくれる。 つまり、観賞バージョンのアズミちゃんなのだ。 俺は、必死に走り続けた。 肺が焼ききれ、足が鉛のように重くなっていっても、俺は、走り続けた。 すべては、アズミちゃんのために。 走って、走って。 そして。 気がついたら、なぜか、見知らぬ場所に立っていた。 俺は、周囲から無数の視線を感じて、ちらりと辺りを見回した。 そこは、白亜の神殿のような場所の中だった。俺は、その広場の中央にある魔方陣のようなものの上に立っていた。 魔方陣の周囲には、何人ものファンタジーなコスプレをした人々がいて、俺に注目しているようだった。 あれ? 俺は、慌ててしまった。 もしかして、これは、映画の撮影中の現場に、飛び込んじゃったの? 俺は、その輪の中心から逃れるように魔方陣から出ると、人々の輪を抜け出そうとした。 「す、すみません」 「お待ちください」 呼び掛けられて振り向くと、そこには、大きな木の杖を持った黒いローブ姿のボンキュッボンの青い髪の絶世の美女がいた。 「私は、このクリスティア王国の女王であり、大魔導士のヨハンナ・ニア・クリスティアでございます。あなたは、異世界より、我々がお招きした勇者様。どうか、我々のためにそのお力をお貸しください」 「はい?」 俺が驚きを隠せずにヨハンナのことをガン見していると、彼女は、俺の前に水晶の球を差し出した。 「どうか、これにお手を」 「ええっ?」 俺は、なんだかわけもわからないままにその球に触れた。 すると、球の上に何やら画面が現れた。 『カナメ ハシダ 16才』 俺、もしかして、ほんとに勇者なの? だが、俺のその期待は、一瞬で砕かれた。 その下に職業と書かれた欄があり、そこには、思いっきり『農民』と書かれていた。 それを見たヨハンナは、ちっと舌打ちすると叫んだ。 「召喚に失敗した!」 はい? がっしりと衛兵らしき男たちが俺を両脇から抱え込んだ。 「えっ?あ、あの?」 「役立たずは、ここには必要はない」 ヨハンナは、さっきまでの態度を翻して、凍りつきそうなほど冷たい瞳で蔑むように俺を見た。 「とっとと去るがいい!」 「ええっ?」 俺は、抗うこともできずにその部屋から連れ出され、城門の外へと放り出された。 突き飛ばされて地面に倒れ込んだ俺が顔を上げると、そこには、見たこともない中世ヨーロッパ風の町並みが立ち並び、当時の衣装を身に纏った人々が行き交っていた。 人々は、地面に倒れている俺を横目で見ながらも、無視して通りすぎていく。 なんだよ。 俺は、妙に、悔しい気持ちになっていた。 俺が何をしたからって、こんな目にあわされなきゃいけないんだよ。 俺は、その場に座り込んだまま、呟いた。 「ここは、どこなんだ?」 「ここは、クリスティア王国の王都ガザです。異世界人よ」 頭上から声がして、俺は、ふり仰いだ。そこには、赤みがかった金髪のスレンダーで背の高い美人が立っていた。
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