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なあ、ナナミ。と父が問いかけてくる。
まるで週末の予定でも聞くみたいに、軽い口調だ。
――なあ。ナナミ。
――ナナミはどこへ行きたい?
――遊園地か? ショッピングモールか? それともリゾートホテルか?
――食べたいものはあるか? なにが好きなんだ?
――お父さん、そんなことも知らないんだよなぁ。なあ、ナナミ、教えてくれよ。
父は自嘲気味に笑っている。済まなそうに眉を下げていた。
――時間はたっぷりあるから、なんでも叶えてやれるぞ。……いや、なんでもは無理かな。
――でも、出来る範囲でがんばるから。メリーゴーランドだって、観覧車だって俺が手動で動かしてやるよ。
「ばかじゃないの」
思わず笑ってしまった。
「そもそも、メリーゴーランドになんて乗る年じゃないし」
――そうか?
「そうだよ。私、18歳だよ。本当ならもう大学生だっつーの」
――大学かぁ。そういえば、ナナミはどこの学部希望だったんだ? 行きたい大学は? あ、オープンキャンパス行ってみるか! きっと楽しいぞ。
「……もういいよ」
――え?
「もういいって」
――なにがだ?
「もういいよ。もうさ、とりあえずご飯何食べるか考えよう。生きてくことだけに集中しよう。明日のことは……、明日考えようよ」
お父さん。
と、そう呼ぶ。
父は、一瞬だけ目を潤ませ、顔がゆがむ。だが、すぐに子供のような笑顔に戻って「そうだな」と頷いた。
おわり
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