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季節は緑から橙、白、桃とめぐり、サーズコブツの急襲から一年がたった。
しかしまだ、人々はサーズコブツの脅威におびえる日々を過ごし、シールドナイトとの生活が続いている。
「魔巨樹が暴れる桃色の季節だけだったのに」
あたしはシールドナイトを横目に、ため息 をこぼしながら窓の外を眺めた。
シールドナイトが悪いわけではない。むしろ守ってくれている。
けれども、サーズコブツが現れてからいるこいつは、サーズコブツがもたらした暗い生活の象徴でもあるように感じてきて、早く離れたい忘れてしまいたいとおもえてくる。
シールドナイトをともなって外出するのもおっくうで、こうして家の中にこもることも多くなった……。
「ねぇ、なんで守ってばかりでやっつけないの? マキョジュとかさ、光の力で焼きはらえるでしょ?」
あたしの大きな独りごとに気づいた息子がたずねてきた。
光の力――それはこの国の王族が持つ天使の力。光を操って火をおこしたり、稲妻を落としたりすることができ、もっぱら自国の守りに使われている。
そして息子は、平穏を脅かす魔巨樹やサーズコブツに行使すればいいとおもっているらしい。
「それができないんだよ」
「またオトナのもんだい?」
説明するのをめんどうくさそうに目をそらしたら、息子はちょっとふてくされた。そう、いつもあたしは、『オトナの問題』という安易な言葉で、説明からのがれている。けど、今回はしっかり伝えるべきかもしれない。
「実はね、クリプトメリアヤポニカは神聖樹と呼ばれていたの。それは、まっすぐ天をさすように立っていたのと、家づくりの材木としての価値が高くて人々が恩恵を受けたからだった。
多くの神聖樹を求めた人々は、木の精霊の注意を聞かずに神聖樹のみの森をつくっていった。
それなのに、魔宝石の家や安価な他の材木を人々は求めるようになり、やがて神聖樹の森は忘れられた。
人の手が加わらなくなったクリプトメリアヤポニカの森は、日の光がはいらなくなり、陰の気がたまっていった。
そして、いつしか魔巨樹として迷惑がられるようになっていた。でも、腐っても元は神聖樹。うかつに滅ぼすことはできないのよ」
「そうだったんだね。じゃぁ、サーズコブツは?」
「あれは、人間に憑依したときにしか認識できないから、なかなかきびしいのよ。いまは、憑依できないようにする研究が進んでいるところなの。だから、このくらしももうすぐ終わるはずよ。シールドナイトとのくらしも――」
息子はシールドナイトへと駆けていった。
「あともう少しお願いね」
「「守るのが私の使命だ」」
シールドナイトの口ぐせを息子は真似て、キャッキャと笑った。
あともう少しだけ……そう何度、この一年はおもったことだろう。けど、こうして家族が笑顔でいられるのは、シールドナイトのおかげだ。
「いつもありがとう」
「「守るのが私の使命だ」」
また息子が声をそろえた。シールドナイトは負けじと、より大きな声で同じセリフを繰り返した。それよりももっと大きな声で息子が。もっともっと大きな声でシールドナイトが……家が響き揺れるほどに音量が増していく。
「もうやめて! 近所迷惑です!」
息子とシールドナイトよりも近所迷惑な大声をあげてしまった……。
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