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桃色の季節だけ
南風が吹き荒れる桃色の季節になると、魔巨樹クリプトメリアヤポニカは分身を風に乗せてヒノ國中に放ち暴れる。
「きゃぁ! やつらが、やつらが襲ってきたー!!!!」
「さあ、今年も私が守ってやるぞ!」
「ああ、シールドナイト! ありがとう!」
困った住民たちはシールドナイトに守ってもらうしかなかった。
どんなときも。
「こんな気持ちよい日にはピクニックしたいな」
「私も連れていくがよい」
「近場を歩くつもりだからいいよ」
「私はあなたを守るのが使命だ」
ちょっとそこを散歩するときも。
「スープ作りたいけど……あれがないな」
「私も連れていくがよい」
「野菜買ってくるだけだからいいよ」
「私はあなたを守るのが使命だ」
ちょっとした買い物をするときも。
シールドナイトは誠実に守ってくれる。が、鬱陶しいと人々は思っていた。
魔王が分身を飛ばすのは、桃色妖精が野山を桃色に染めるころだけであった。桃色の景色を見物したい人々が外に出てくるのを狙っているからだ。
緑色妖精が野山を緑に染めだすころには、分身の勢いが弱まり、桃色の季節がまた来るまでおとなしくなる。
「雑貨屋に――」
「私も連れていくがよい」
「もうやつらはいないから、必要ないよ」
「でもまだ少数いますぞ。私はあなたを守るのが使命だ」
「もういいって言ってるでしょ! 来年までもう結構です」
シールドナイトは暑苦しすぎたのだ。
守りが不要となれば、窮屈なおもいをしていた人々は彼を引き離し、遠ざけた。
桃色の季節だけ守ってくれれば、じゅうぶんだったのである。
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