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それから一年経って、僕はふとネックレスの事を思い出した。
どこかに会えるという直感があったのかもしれない、急いで公園に行ってみることにした。
そして、桜の木の下で、やはり彼女はいた。
あの日と同じ服装で、エメラルドグリーンの瞳で。
……姿が変わらず、そこに居た。
嬉しくなった僕は一気に彼女のところに走っていった。
でも、どうやって話そうかまったく考えていなかった。
そよ風が気まずい緊張を運んできて僕を包みこむ。
その不安を解き放ってくれたのは、彼女の一声だった。
「……あの、あなたは?」
消え入りそうな声が僕の耳に届く。
小さいながらも、なんだか透明感溢れる歌声みたいな声だった。
「あのう、去年の今頃もこの公園に居ましたよね?」
……。
「その時、ネックレス落としていませんか」
……。
彼女は僕の手に乗せられているネックレスを見ても無言のままだった。
その表情は不思議とも、不審とも思えないような。
何を考えているのかすらこちらには伝わってこなかった。
わずかに首を傾げているだけなのだ。
やっぱり失敗だったのだろうか、諦めかけた僕の心に彼女が語りかける。
「そうなのですね。
もしかしたら、”私ではない私”の持ち物かもしれません」
ねえ知っていますか?
そう言って、彼女は頭の上に広がる桜の木を見上げた。
「この桜はソメイヨシノの木ですね。
日本全国に植えられているものは、ひとつの樹から作られたクローンなのよ。
まるで、”わたしはわたしではない”みたいな演劇の台詞みたいですね。
まるで、自分自身のようなの」
僕たちの間にひときわ強い風が吹いた。
・・・
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