20人が本棚に入れています
本棚に追加
終
それから、それまでと代わり映えのない生活が続いた。
花の魔女は、やはり魔法を使わず、花を育て、花茶を作り、薬を調合するばかりで、弟子はそれを手伝うばかりだった。
ある日の昼過ぎ。花の魔女の寝室で、弟子が1つのつぼみを見つけた。
あと一日か二日できっと花ひらく、大きくて丸いつぼみ。
ふと思い立った弟子が目に力を込め、つぼみをじっと見つめる。
弟子の視線を受け、つぼみは――ピクリとも動かない。
「やっぱり無理か」
「あせりは禁物ですよ」
呟く弟子の肩を、花の魔女がぽんと叩く。
「いつ咲くかと待ち遠しく思うからこそ、咲くまでは楽しく、咲いたときは嬉しいのです」
振り返った弟子へ語り聞かせながら、花の魔女が愛おしむようにつぼみを撫でた。
その隣では、今にも落ちてしまいそうな萎れた花が咲いている。
「先生は、花が枯れたら悲しくありませんか? 元に戻したいと思いませんか?」
「もちろん悲しいですよ。でも、悲しいからこそ、大切にしようと思うのです。それに」
花の魔女が、萎れた花を慈しむように撫で、
「ずっと咲いたままの花って、なんだか――かわいそうな感じがしませんか?」
その声は、その姿は、これまで弟子が見聞きした中で一番――寂しげで悲しげだった。
「すみません。よくわかりません」
「いつかきっとわかります。なんといっても私の弟子ですから」
花を撫でたのと同じ手つきで、花の魔女が弟子の頭をそっと撫でた。
「さて、お茶にしましょうか。今回の花茶は自信作ですよ」
「それは楽しみです。用意しますね」
花のように笑って答え、弟子がキッチンへと駆けて行く。
1人残された花の魔女が、つぼみと萎れた花を見る。
「待っています。またいつか」
それぞれの花へ言葉を送ってから、花の魔女は部屋を後にした。
最初のコメントを投稿しよう!