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3
「そうだ。せっかくだから、順番に魔法を披露しませんか」
紹介を終えてすぐ、花の魔女が提案した。
霧の魔女と全の魔女が、面白そうだと賛成した。
森の魔女と星の魔女が、面倒だからと反対した。
結果、三対二の多数決で可決され、お披露目大会が始まった。
一番手は森の魔女。
森の魔女がキセルから煙を吸い込み、輪の形にもくりと吐く。煙の輪は弟子の方へ向けてふわふわと漂い、輪投げの輪のように弟子の腹とひじを囲った。
森の魔女が手にしたキセルでテーブルをひと叩きする。カツンと音が響くと、煙の輪がぐっと縮み弟子の体を縛り付けた。
森の魔女がキセルを動かす。上に動かせば上へ、横に動かせば横へ、煙に縛られた弟子の体が宙を舞った。
キセルの動きに合わせて上がる弟子の悲鳴と、それを見た三人の魔女の笑い声が森に響いた。
次に、星の魔女がテーブルに並べていたカードを束ね、弟子に渡した。
「全部で百枚。私に見せずに好きなカードを三枚引いて」
淡々とした声で星の魔女が呟く。
弟子が一枚引いた瞬間、星の魔女が家路と呟いた。カードには、小さな家とそこへ続く道が描かれていた。
弟子がもう一枚引いた瞬間、星の魔女が月と呟いた。カードには、邪悪に笑う満月が描かれていた。
弟子がさらに一枚引いた瞬間、星の魔女が悪魔と呟いた。カードには、鎌を片手に座り込む悪魔が描かれていた。
絶句したまま、弟子がカードを束ねて星の魔女に返す。
星の魔女はカードを受け取る際、初回特典と前置きして、
「近づく女に気をつけろ」
と呟いた。
霧の魔女は、座ったままクスクスと笑っていた。
何をするのかと見つめる弟子の前で、笑い声だけを残し、その姿がかき消えた。
行方を探して左右を見回す弟子の肩を、後ろから誰かの手が叩く。驚いた弟子が振り向くが、そこには誰もいなかった。
弟子が再び前を向くと、霧の魔女は元いた席でクスクスと笑っていた。
まさしく霧のような魔女だった。
最後は全の魔女。
全の魔女が指を鳴らすと、手のひら大の火の玉が現れた。
「火の精霊だ」
「火気厳禁だ」
全の魔女が告げ、すかさず森の魔女が咎める。
眉をひそめた全の魔女が指を鳴らすと、火の玉が消え揺らめく水の玉が現れた。
「水の精霊だ」
「湿気は苦手」
全の魔女が告げ、すかさず霧の魔女が口を尖らせる。
ムッとした全の魔女が指を鳴らすと、水の玉が消え小さな風の渦が現れた。
「風の精霊だ」
「カードが飛ぶ」
全の魔女が告げ、すかさず星の魔女がぼやく。
ため息をついた全の魔女が指を鳴らすと、火の玉と水の玉と風の渦が同時に現れた。途端に、三人の魔女から一斉に非難の声が飛ぶ。
呵々と笑った全の魔女が指を鳴らすと、精霊たちは姿を消した。
「大トリだぞ」
全の魔女が花の魔女に言った。
花の魔女は笑顔で応え、持参したティーセットを広げた。自家製の茶葉をティーポットに入れ、全の魔女にウインクを送る。
全の魔女が指を鳴らす。現れた火の精霊と水の精霊が協力してお湯を作り、ティーポットへ注いだ。
精霊たちに礼を言い、頃合いを見て、花の魔女がティーカップに花茶を注ぐ。不思議な色をした水面から、不思議な香りがふわりと漂った。
花茶を注ぎ終えると、花の魔女は、今度は森の魔女にウインクを送った。
森の魔女がキセルを吸い、長く細く煙を吐く。
揺らめく煙は9つに分かれ、手のひら大の小人となってテーブルの上に着地した。
煙の小人たちは、1人1つずつカップを抱え、魔女と弟子の元へと運ぶ。運び終えると、小人たちは形を失って立ち消えた。
そうして、手元に残ったカップを手にした花の魔女が、
「これが、私の魔法です」
笑顔でそう告げると、森の魔女は煙を吐き、星の魔女は何も答えず、霧の魔女はクスクスと笑い、全の魔女は声を上げて笑った。
そんな中で――弟子はひとり拍子抜けしていた。
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